003:別れ
「トビラの鍵を開けて欲しければ、今から言う問題の答えを独りで導き出せ」
そういったのは、二日前の夜。散々こき使って、夕食を食べていた時のことだった。
そして、その問題とは、『何をするために出て行くのか』だった。
一夜明け、トリス=影(かげ)は朝日の昇る方向にある廃墟を眺めていた。
たしか、誰かが壊すまで内部所属の遊び場だったはずの場所だ。幼いころ、誰かが火をつけたために立ち入り禁止になって、遊び場が減ってしまったことを覚えている。内緒で忍び込もうとして、元A内部の裕樹光(ゆうき あきら)に捕まったんだっけ・・・。
そんなこと、ぼんやりと考えていた。
昨夜の会話。
ケリー・ライはそれに即答した。けれど自分は、分からなかった。何かをするために、行く。それは分かっている。けれど、何をするためか、と、明確な目標は何もない。
なるようになれ!
と、思ってこれから生きていこうとしていた。その場その場で考えて、その時の最善の行動を取れるように頑張ろう。後悔したらその時はその時なのだから、と。これが、今まで生きてきて、最良な判断基準だった。
だから、即答できたケリーが、突然、知らない人のように見えて、怖かった。
ケリーが言ったことが、凄かったわけではない。内容は、結局のところ自分とさして変わらない気がした。ただ、それをためらわず明言できたことに打ちのめされたのだ。
「トリス」
あの廃墟は、これからどうなるのかな。と、また、とりとめもなく考えていると、ケリーが自分を探しに来た。
「なに」
振り向きもせず、短く返す。
「どうかしたの」
ケリーは、トリスの顔を、覗き込むように、見た。朝日がゆっくりと昇りだし、その表情は眩しすぎてよくは分からない。
「別に」
「そう。・・・・・、わたしは、合格だって」
ためらった末に、ケリーは言った。
「・・・・・」
「トリスも、すぐに答えられるよ」
柄にもなく、慰められているな、と第三者の目で眺めていた心は呟いた。
そして、朝食後、ケリー・ライは旅立った。
内部所属Dケリー・ライはその日付で、無限城の名簿から抹消された。
「で、おぬしの答えは?」
昼過ぎ、トトは言った。トリスはまた、ぼんやりと廃墟を眺めていた。
「でてるんだけど、一言では言い切れないんだ」
「いえるだけでもいえんのか」
「・・・・・」
「そうか」
沈黙。
「でも」
沈黙を破ったのはトリス。
「でも、自分で決めた事だから、責任は持つ」
旅立つ自分へ、言われた言葉。
その意味は、まだ理解し切れていないだろう。これから理解していけばいい。まだ分からないことを知るために、その為に、進むのだ。
トトは、少年の決意のこもった瞳から、何を読み取ったのだろうか。
ただ、扉の番人は次に朝、トリス=影(かげ)を無限城から送り出した。
内部所属D、トリス=影。無限城の名簿から抹消。
矛盾した世界。
十代になったばかりで既に内部所属を卒業するものもいれば、二十代になって、卒業するものもいる。
すべては個人の決断と意思。
偶然と必要性からくる何かの意志。
END
ついに、土地すらも、無限城を旅立った二人。どうなるでしょう?
予定では、ケリー・ライちゃんは一時おやすみです。
これからはトリス=影(かげ)でいきますよ〜♪
第四話「旅立ち」 お待ちください。
平成十七年一月十九日水曜日
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