002:トビラ

 

 

 

「いったな」

琵李苛(びり いら)はいつもと同じ口調で言った。

「うん・・・・・。」

それに対して、日比野優(ひびの ゆう)はいつものお気楽な雰囲気とは何処か違う返答をしていた。

少なくとも、苛にはそう感じた。

「日比野?」

「・・・、あ。なんでもない。帰ろう!」

その雰囲気が勘違いであったのか。そう思わせる変わりようで笑った。

大抵のものなら勘違いと思う些細なこと。それだけ、この雰囲気はいつもの優とは違いすぎた。

「日比野、   ライか?」

しかし、相手は無限城内で唯一親友と呼べる二人のうちの一人、琵李苛だった。だから、見逃してはくれない。

「苛っち。言わないで」

だからか、優は先手を打った。

 

 

     ×   ×  × ×  ×   ×

 

 トリス=影(かげ)とケリー・ライは二人きりになってから、沈黙を保っていた。

無限城の同じ内部所属としての関係は目の前に迫るトビラについたら終わるのに、何も会話がなかった。

トビラを出たら、一人旅になる。

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

トリスは、視線をトビラから、空へと向けた。

決して綺麗な空ではなかったけれど、十数年間、毎日見てきた空。

その空は、今は真っ赤に染まっている。その夕焼け空を見て、綺麗だなぁ〜と感じていた。

「トリス・・・・・・」

沈黙を破ったのは、ケリーだった。

「ん?」

「なんでもない」

「はぁ?」

そして、沈黙。

 

 トリスは、ケリーのことを自分よりも年上で、喧嘩が強いのに、性格が消極的な姉貴分、ではなく、妹として見ている感じがあった。

何故か、失敗した時に庇ってもらう立場にはならず、庇ってやる立場になっていた。

年の差は2つ。

間に、ケリアス・D。がはいる。ケリアスは、性格は強気なのに、喧嘩はメチャクチャ弱かった。

これもまた、兄貴分にはならず、弟の世話をしている感覚になる。

結局、同い年として区分されてはいたのだが。

「ケリー・・・・」

 そんなことを思い出しながら、今度はトリスが沈黙を破る。

「え、あ、何?」

「また、あおうな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

唐突過ぎて、言葉が出なかったが、代わりに涙がこぼれた。

「な、何泣いてんだよ」

「ごめん」

嬉しかったから。

 旅立ちは望んだこと。けれど、寂しい気持ちがあった。怖くて、不安に押しつぶされてしまう、恐怖。そして、希望。

「それ、さっき私が言おうとしたんだからね」

「あー、はいはい」

「こら、ちゃんと聞きなさい!」

いつの間にか、いつもの調子に戻っていた。

 笑い声が木霊する。もう残された時間はあとわずかで、その時間を、悔いが残らないように、使い果たすように、たくさんのことを話した。

 これからも夢、過去の失敗を謝って、そんなこと、まだ覚えていたのかのかと、驚いて、馬鹿にして、・・・・・・・・・・。

 

「騒がしいの」

だから、トビラの前に人がいたことに気がつかなかった。

「え・・・、トト?」

「いや、わしの名はトトではなく、扉の番人じゃよ。個人名で言うなら、・・・・・・・・・・。」

「トリス? あ、本当だ。トトさんだ」

無視したかったわけではないが、結果的にケリーは扉の番人と名乗る人物を無視したことになる。

「・・・・・・・、ケリー、お前は、年長者が喋っている時に何故さえぎる」

「え、あ、っと、ごめんなさい・・・。」

恐縮させまくってしまったので、扉の番人―トトはいささか優しくなる。

「よい。と、トリスだったの。もう一人は・・・。」

「ケリーだよ、ケリー・ライ」

「ふむ、では、トリス=影(かげ)、裏から薪を取ってきてもらえるかの。で、ケリー・ライは湯をわかしてくれ」

一瞬の沈黙、そしてその後に響く声は、非難の声に違いなかった。

 

 

 

「ええ!!」

話は夕飯時の途中に起こった。

 トリスとケリーは、いいように使われて、夕飯の準備をさせられて、一緒に食卓を囲んでいた。

泊っていけとまで言われて、朝にしか扉の先に行かせてくれそうになかったから、諦めてご馳走になっているところだった。

「トトって、扉の番人だったんだ・・・。」

「扉の番人なんてあったんですか? で、それが、トトさん???」

二人の会話からほぼ推測可能のような話。それは、番人であるトトの許可を得なければ、トビラは開かないということだった。

 

トビラ。

古くからあるものの一つで、二人の記憶の中にはあって当たり前のものだった。

そして、二人とも、そのトビラがトビラとしての役割、開け閉めされて誰かを通すところを見たことがなかった。

その先に何もないのに、ただ、壁に描かれているだけのような、トビラ。

そのトビラは、歴代の“外へ出ることを選んだ者”のみを通してきたのだという。

 

そして、そのトビラの鍵を握るのは、扉の番人であるこの老人―トト。

 

旅立ちは、まだまだ先のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          END

 

 

   中途半端(?)なところで終わりました。第二話 「トビラ」です。如何でしたか?

   新キャラも登場!ですね。トビラの番人、トト。この老人(?)何? って感じで好きかもしれない・・・。いや、好きです。こういう人。会話していて楽しいなぁ〜って、思えるじゃないですか!!

   虐められる当の本人たちには悪いですけど・・・・。

 

   それでは次回、 第三話「別れ」 です。でわでわ。

 

 

          平成十六年六月二十一日月曜日

 

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003:別れ







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