001:始まりの地で
「それでは」
と、聞く声を聞き、トリス=影(かげ)とケリー・ライは歩き出した。
声の主は驥足世羅(きそく せら)。煙草を一時間近くも吸っていない。そんなことは、二人の記憶の中で、初めてだった。
だから、改めて知る。事の重大さを。自分たちの人生に、意味があったのかと、信じられる瞬間。希望と不安の時。
無限城の外壁。旅立つ場所。
外の世界から、捨てられて、ここで育つことを強制された者、そして、外へ出ることを選んだ者。
今日は、その者たちの旅立ちの日だった。
× × ×
「何で行くの?」
そう、トリス=影に言ったのは、ケリアス・D。
「なんとなく、かな・・・」
トリスは笑いながら、ケリアスの髪の毛をくしゃくしゃにした。
二人の歳の差はあまりなかったが、トリスは既に自分の道を決め、ケリアスは、まだまだ先のこと、と、考えていた。
此処、無限城には、明確なルールはなく、その時が来たと当人が悟ったら、その時なのだと言う。
内部所属にいる期間、その、養われる期間を断ち、選ぶ時。旅立つか、残るか。
旅立ちとは、自分たちを捨てた世界に戻ること。残るとは、新たに来るであろう、内部所属のために、外部と内部に分かれて役割をする。
見送りにきたのは、ケリアスのほかに、同じ管轄内にいた数名と、違う管轄から数名。
「トリー、頑張れよ」
そう手をふったのは、元は同じ管轄下にいて今は外部にいる、日比野優(ひびの ゆう)。瞳を覗き込むように見て、それだけだった。
拍子抜けしてしまって、なんとなく居場所がなかった俺の元に入れ替わりのように、優の横にいた男、琵李苛(びり いら)がきて耳元でささやいた。
「自分が信じてやらなければ、何も、ない。自分で決めたことだ。責任持て」
と、微かに笑って、ケリーと話す、優のほうを見る。
「日比野、アイツが言ったことは、凄く重たい言葉だよ」
と、続けた。そんな苛を見て、笑って頷く。知っていることだから。つかみ所のない、優の本質を。
「ゆ〜う、は、何時行くの?」
ケリーは近づいてきた優に唐突に、けれど、核心をついた言葉をかけた。少し戸惑う優。
「僕?」
そして、綺麗とはいえない無限城の空を見上げて、返した。
「ライライは、何で行くの」
「え、わ、私? 私は、外の世界を見てみたかったから、知りたいんだ。この先、何が待っているのか不安だし、怖いよ。でも、でもね、やってみないとわかんないじゃん!」
そんなケリーを優は笑って見ていた。
こんな、いつもあった日常会話も、これで最後。自分たちは、此処で育つことを強制されたが、そのあとは、自分の人生なのだ。
だから、行く。
× × ×
「いい? この先に、トビラがある。そこからでれば、もう、無限城の住人ではなくなる。無関係というわけでない、友達ならそのまま、仕事として付き合っても、依頼して、されて・・・、それらは自由。ただ、もう、貴方たちを保護する存在ではなくなる」
世羅は、そういうと、外壁の一点を指差した。
’決意は?’
と。言うように、ただ、真っ直ぐに。
トリスは、悲しいな、と思った。
此処から旅立てる期待感はあるけれど、今まで一緒にいた友達や、家族のような人たちと、もう、二度と会えないかもしれないからだ。
それでも、行くことを決めた。だから、笑顔で振り向いた。忘れないために、心の支えにと。
この、自分の“家”と呼べる存在、無限城の全貌を目に焼き付けておくために・・・・。
「ぁりがとぅ・・・・さよぅ・・・、いってきます!」
しっかりとした足取りで、歩みだした。
END
動き出しました。無限城の外伝(?)です。第一話目「始まりの地で」これは、もちろん、無限城のこと、でしょうね〜。(←誰?)
本編(?)とは違った者の語られない物語。残った者ではなく、旅立った者の人生とはどうなったのか?
その中を、ちょっと覗かせてもらいましょう、感覚で語らせていただきます!
もちろん、本編(?)とは時間的に同時進行の予定です。(予定は未定〜♪)
さて、旅立った二人、残った者たち。あと99話、語らせていただきます。
では、第二話「トビラ」をお待ちください。
平成十六年六月七日月曜日
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(C)Yami Sirasaki
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